散文

上を向いて生きるのは苦しい。いつか自分の限界を思い知らされるから。どうしようもない天才に格の違いを思い知らされる。だから私は隣にいる透より少し先を行くことにした。でも透は飛び立ってしまった。

日常が壊れる。壊される。そんな破壊者から私の、私たちの日常を守るために私は動く。すべての根元たる愚か者は私にアイドルとしての魅力があるなどとのたまう。だから私はその勘違いを思い知らせるためにアイドルになった。

アイドルになってからは順調に物事が進んだ。進んでしまった。彼はどれだけ突き放そうとこっちの領域に足を踏み入れようとする。どんなに挑発しても私を切り離そうとしない。本当に愚かな人。何もわかっていない。わかってほしくない。わからせない。

 

どうしてあの人は私にそんなに期待を寄せるのか。なぜ私にファンができるのか。私には何もないのに。いつかその期待を裏切る時が来る。それなのにあの人は……本当に愚かな人。全てが台無しになる可能性しかない賭けができるなんてどうにかしてる。

 

息を大きく吸って、吐く。この感覚を私は知らなかった。あるいは遥か昔すぎて忘れていた。日常では得ることのできない蜜であって人生を狂わせる劇薬だ。

私は期待を裏切ってしまったはずだ。本当に?誰も私を責めたりしない。どころか私の代わりに泣いてくれる人がいる。どうして他人のことをそんなに思うことができるのだろうか。本当に愚かな人。

 

『もう一度、一緒に』彼の言葉に私は返事をする。ここで終わりにしたくはないから。